【自治体編】観光DXの基本|デジタル案内・データ活用・次世代施策

  • DX・効率化

最終更新日: 2026/02/25

公開日: 2026/01/30

インバウンドの本格的な回復が報じられる一方で、観光の現場からは「嬉しい悲鳴」が聞こえてきます。

深刻な人手不足により、押し寄せる観光客への対応が追いつかない。かつてのやり方では、もう限界かもしれない。そんな漠然とした不安を抱えている自治体の観光担当者の方も多いのではないでしょうか。周囲からは「DX」「デジタル化」という言葉が飛び交いますが、具体的に何から手をつければ良いのか、どこに相談すれば良いのか分からず、立ち往生してしまうケースも少なくありません。

本記事は、まさにそのような課題を抱える皆様のための「観光DXの地図」となることを目指しています。専門用語を極力避け、観光DXがなぜ今必要なのかという根本的な理由から、明日からでも始められる具体的な第一歩、そしてデータ活用や次世代技術を見据えた未来の展望までを、順を追って丁寧に解説します。

1. なぜ今、自治体に観光DXが不可欠なのか

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観光DX(デジタル・トランスフォーメーション)とは、単にデジタルツールを導入するだけにとどまりません。デジタル技術を活用して観光客の体験価値を高めるとともに、事業者の生産性向上を図り、観光地の経営そのものを根本から変革する取り組みです。なぜ今、自治体にとってこれが急務となっているのか。その背景には避けて通れない3つの重要な環境変化があります。

1-1. 深刻化する人手不足と旅行者の期待の変化

まず最大の課題は、観光産業を取り巻く深刻な人手不足です。宿泊施設や交通機関、観光案内所などの現場で働く人材が不足し、サービスの質を維持することが次第に難しくなってきています。

限られた人員で多くの観光客に対応しながら、質の高いサービスを継続的に提供するためには、業務の効率化が避けられません。従来は人が担っていた定型作業をデジタル技術に代替させることで、人材はより付加価値の高い「おもてなし」や「創造的な業務」に注力できるようになります。

同時に、訪日観光客の行動様式も大きく変わっています。過去の団体旅行中心から、個人で情報を集めて自由に旅を組み立てる個人旅行(FIT)が主流に変化しました。彼らはスマホを用いてリアルタイムで情報を検索し、予約や決済もオンラインで完結することに慣れています。旅行前の情報収集、旅行中の体験、旅行後の情報発信に至るまで、シームレスでパーソナライズされたデジタル体験を求めているのです。

アナログな案内や煩雑な手続きは彼らにとって大きなストレスとなり、観光地としての魅力を下げかねません。こうした変化に適応できない地域は、旅行先の候補から外されてしまうでしょう。

1-2. 「勘」や「経験」から「データドリブン」な観光戦略へ

これまでは観光政策が担当者の長年の経験や「勘」に依存している部分が大きくありました。確かに、現場で培われたノウハウは重要ですが、それだけでは変化の激しい現代の観光環境に対応することは困難です。例えば「この時期には特定の国からの観光客が多いはず」「このイベントを開催すれば集客できるだろう」といった予測が必ずしも現実に合致しないこともあります。

ここで鍵となるのが、データに基づいた観光戦略です。観光客がどこから訪れ、どのルートを通り、どの場所でどのような消費をしたのか。ウェブサイトのアクセス傾向やSNS上で地域に関する投稿内容など、様々なデータを収集・分析することで、観光客の動向やニーズを客観的に把握できます。

その上で、「特定の国からの観光客はA地点からB地点を巡る傾向があるため、その間に新たな立ち寄りスポットをPRしよう」「平日の午前中に混雑するエリアがあるため、近隣エリアへ誘導するクーポンを発行しよう」といった、より効果的で的確な施策を打ち出すことが可能になります。

これはEBPM(Evidence-Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)の考え方であり、限られた予算や人材を最大限に活用するうえで不可欠な手法です。

1-3. 持続可能な観光地運営(サステナブル・ツーリズム)の実現に向けて

観光客の過度な集中は、地域住民の生活環境の悪化や自然環境の破壊といった「オーバーツーリズム」という世界的な課題を生んでいます。観光は地域に経済的恩恵をもたらす一方で、それが持続可能でなければ意味がありません。地域の文化や自然を守りつつ、観光客の満足度と住民の生活の質を両立させる「持続可能な観光地運営」が求められているのです。この問題解決においても、観光DXは強力な役割を果たします。

例えば、AIカメラや人流データを活用し、特定観光地の混雑状況をリアルタイムで可視化。その情報をウェブサイトやデジタルサイネージで観光客に提供することで、訪問時間の分散を促せます。また、知られざる魅力的なスポットをデジタルマップで案内し、有名観光地以外の地域への誘導も可能です。これにより、観光客の集中をコントロールし、消費を地域全体へと広げられます。

DXを通じて観光を「管理」することで、地域にとって望ましい形で観光客を迎え、持続可能な発展を実現することが可能となるのです。

2. 観光DXの第一歩:まずは「デジタル案内」の強化から

観光DXと聞くと、大規模なシステム開発や高度なデータ分析を思い浮かべがちですが、最初からそこを目指す必要はありません。まずは、観光客との接点が最も多く、効果を実感しやすい「デジタル案内」の領域から取り組むのが成功への近道です。

ここでは、導入が比較的容易で、すぐに効果が期待できる3つの施策をご紹介します。

2-1. 多言語対応のデジタルサイネージ

駅や空港、バスターミナル、主要観光スポットの入口など、観光客が必ず訪れる場所に設置する多言語対応のデジタルサイネージは、非常に効果的な情報提供手段です。観光案内所が閉まっている早朝や夜間でも、24時間365日、観光客に必要な情報を届けられます。これにより、案内所スタッフの人手不足を補い、負担を軽減することが可能です。

導入時のポイントは、コンテンツの質と操作性です。単に地図を表示するだけでなく、リアルタイムの交通情報、イベント情報、気象警報や災害時の避難情報など、緊急時の情報も配信できる仕組みが不可欠です。また、タッチパネル式を採用する場合は、誰でも直感的に操作できる分かりやすいユーザーインターフェース(UI)が求められます。コンテンツはCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)を利用して遠隔から簡単に更新できるものを選べば、常に最新の情報を発信し続けられます。

まずは地域の玄関口となる場所に1台設置し、利用状況を見ながら設置場所やコンテンツの拡充を図ることが望ましいでしょう。

2-2. AIチャットボットによる問い合わせ対応の自動化

自治体の観光ウェブサイトや案内所の窓口には、「〇〇への行き方は?」「開館時間は?」「近くのおすすめレストランは?」など、定型的な質問が多く寄せられます。これらすべてに人が対応するのは大きな負担です。ここでAIチャットボットを導入すれば、24時間365日、多言語で自動応答が可能になります。

導入成功のカギは、事前のシナリオ設計にあります。過去の問い合わせ履歴を分析し、よくある質問(FAQ)と回答を丁寧に準備することが、チャットボットの回答精度を左右します。最初から完璧を目指すのではなく、最も頻度の高い質問トップ20程度から対応を始め、運用しながらシナリオを徐々に増やしていく方法が現実的です。また、AIで対応しきれない複雑な質問は、スムーズに有人チャットやメールフォームに切り替えられる体制も重要です。チャットボットが基本的な質問に対応することで、職員はより個別で丁寧な対応が必要な相談に専念できるため、サービス全体の品質向上につながります。

2-3. 公式ウェブサイトとSNSの戦略的活用

現代の訪日観光客にとって、公式の観光ウェブサイトやSNSは、旅行前に現地情報を得る最も重要な手段です。このデジタル上の「玄関口」が整備されていなければ、そもそも訪問先の候補として選ばれない可能性があります。まず自分たちのウェブサイトが現在の旅行者のニーズに合っているかを見直すことが重要です。

最低限必要なのは、ターゲットとする国の言語対応と、スマートフォンでの閲覧に最適化した「モバイルファースト」のデザインです。多くの旅行者は移動中や滞在中にスマホで情報収集を行うため、PC用に最適化された見た目だけでは不十分です。さらに、単に情報を掲載するだけでなく、宿泊施設や体験アクティビティの予約ページへスムーズに誘導できる設計も欠かせません。

SNSについては、国や地域によって主流のプラットフォームが異なることに注意が必要です。例えば欧米圏ではInstagramやFacebookが主流ですが、中華圏ではWeChatやWeibo、韓国ではNAVERブログが重要視されています。

ターゲット市場を明確に定め、その市場で影響力のあるプラットフォーム上で、現地語と感性に合ったコンテンツを継続して発信することが不可欠です。観光庁もデジタル技術を活用した情報発信の重要性を強調しており、これらの基本的な取り組みが観光地の競争力を決める要因となっています。

3. 「データ活用」による観光戦略の高度化

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デジタル案内を充実させることで、自然と多様なデータが蓄積されていきます。ウェブサイトのアクセスログやチャットボットの問い合わせ履歴、デジタルサイネージの利用状況など、これらは地域の観光を可視化する貴重な情報資源となります。

次の段階では、これらのデータを積極的に活用し、より戦略的な観光地運営を目指していきます。

3-1. どのようなデータが収集可能か

観光DXで活用できるデータは非常に多彩です。代表的な例をいくつかご紹介します。

  • 人流データ:携帯電話の基地局情報やGPS位置情報、公共Wi-Fiの接続ログなどから取得するデータです。匿名化された状態で、特定のエリアにおいてどの時間帯にどれほどの人が滞在しているのか、また観光客がどのようなルートを巡っているのかを把握できます。これにより、従来は見えなかった観光客の動きを可視化でき、混雑の緩和や新たな周遊ルート開発に役立つ示唆が得られます。
  • 予約・決済データ:地域内の宿泊施設や体験事業者と連携し、予約やキャッシュレス決済のデータを収集します。これによって、観光客の国籍や年齢層、消費額や消費内容といった詳細な属性や行動パターンが把握可能です。どの国の観光客がどのような体験に興味を持ち、どの程度の支出をしているかを分析することで、効果的なプロモーション戦略の策定が可能になります。
  • Web・SNSデータ:自社ウェブサイトのアクセス解析からは、利用者がどのページに関心を示しているかや、どのようなキーワードで検索して流入してきたかを把握できます。また、X(旧Twitter)やInstagram、各種レビューサイトの投稿を分析することで、地域の評価や観光客の満足点・不満点といったリアルな声を拾い上げることができます。

3-2. データ分析の基本手順

データの収集だけでは効果は生まれません。分析し、その結果を施策に反映させるプロセスが重要です。基本的には以下のステップで進めます。

  • 目的の設定:最も重要なのは「データで何を明らかにしたいか」という目的を明確にすることです。たとえば、「オーバーツーリズムが発生しているA地区の混雑緩和」「B地区への観光客誘致の強化」など、具体的な課題を設定します。
  • データの収集・統合:目的に合わせ、必要なデータを収集します。人流データ、決済データ、Webデータなど複数のデータを組み合わせて分析することで、より多面的な洞察が得られます。これらを一元的に管理・分析するためのプラットフォーム(DMP:データ・マネジメント・プラットフォーム等)の導入も有効です。
  • 可視化と分析:収集したデータを、グラフや地図など視覚的にわかりやすい形で表現(可視化)します。BI(ビジネス・インテリジェンス)ツールの活用により、専門知識がなくてもデータの傾向を直感的に把握可能です。たとえば、時間帯別や曜日別の来訪者数をグラフ化したり、周遊ルートを地図で表示したりすることで、課題や新たな発見が浮かび上がります。
  • 施策への反映と効果検証:分析結果に基づき、具体的なアクションプランを策定します。例として「平日の午後の来訪者が少ないことが判明したため、その時間帯限定のクーポンをウェブサイトで配布する」といった施策が挙げられます。施策実施後には再度データを収集し、効果検証(PDCAサイクル)が不可欠であり、これにより戦略の精度が向上します。

3-3. データ活用における留意点と失敗を防ぐ準備

データ活用を進めるにはいくつかの注意点があります。まず、個人情報保護法をはじめとする関連法規の遵守が不可欠です。氏名や連絡先など個人を特定できる情報は適切に管理し、分析にあたっては必ず匿名化された統計データとして扱う必要があります。観光客のプライバシー保護への配慮が信頼の土台となります。

また、事業者間の「データの壁」も大きな課題です。宿泊施設や小売店が保有する決済データや顧客データは、各事業者にとって重要な資産であり、簡単には共有されません。データ形式の違いによる統合の難しさといった技術的問題もあります。

こうした壁を乗り越えるには、行政が主導してデータ連携のメリットを丁寧に説明し、地域全体でデータ共有・活用を図るコンソーシアムや協議会の設立が効果的です。JTB総合研究所のレポートでも示されているように、データ連携は今後の観光地競争の重要な鍵を握ります。加えて、データ分析から施策につなげられる人材の育成・確保も重要な課題です。内部育成が困難な場合は、専門知識を有する外部企業やコンサルタントとの連携も現実的な選択肢となります。

4. 未来を見据える:次世代施策で選ばれる観光地へ

デジタル案内やデータ活用が一般化した先には、さらなる新技術を駆使した次世代の観光体験が待ち受けています。これらの分野はまだ成長過程にありますが、早期に取り組むことで他地域との差別化が図られ、「選ばれる観光地」としてのポジションを確立することが可能です。

4-1. メタバースやVR/ARによる革新的な観光体験

メタバース(仮想空間)やVR(仮想現実)、AR(拡張現実)といった技術は、観光の可能性を大きく広げる役割を果たします。

  • メタバース:現地へ物理的に行けない方に対して、仮想空間上で再現された観光地を体験してもらうことができます。これは旅行前のプロモーションとして非常に効果的です。バーチャルツアーを通じて地域の魅力に触れてもらうことで、実際の訪問意欲を高めることが可能です。さらに、メタバース内でアバターを介した交流イベントや物産展を開催するなど、新たなコミュニケーションの場も創出できます。
  • VR/AR:VRによって、現在は見ることができない昔の城の姿を当時のままに体験したり、立ち入りが制限された文化財の内部を鑑賞したりと、現実を超える体験が提供できます。一方、ARは現実の風景にデジタル情報を重ねて表示する技術で、スマートフォンのカメラをかざすだけで史跡の昔の姿が再現されたり、キャラクターと一緒に写真を撮れたり、道案内をしてくれたりと、現実の観光をより豊かで楽しいものにする活用が期待されています。

これらの技術は単に新しいだけでなく、地域の歴史や文化をより深く、魅力的に伝えるための強力なストーリーテリングツールとしての役割も果たします。

4-2. MaaS(Mobility as a Service)による滑らかな移動体験

特に地方の観光地域では、鉄道駅から先の「二次交通」の脆弱さが訪日観光客にとって大きな障壁となっています。バスの利用方法がわかりづらかったり、本数が限られていたり、タクシーが捕まりにくいといった問題は、周遊観光の妨げとなり、観光客の満足度を著しく低下させます。

この課題に対応するのがMaaS(Mobility as a Service)です。MaaSは、電車やバス、タクシー、シェアサイクル、デマンド交通など、地域内の多様な交通手段を一つのスマートフォンアプリで統合し、ルート検索から予約、決済までワンストップで提供する仕組みです。観光客は言語や支払いの煩雑さから解放され、ストレスなく地域内を自由に移動できるようになります。これにより、今まで訪れにくかった場所にも足を運びやすくなり、観光の幅が大きく広がります。さらに、MaaSで得られる移動データと観光施設の来訪データを組み合わせることで、より精度の高い人流分析や新しい周遊ルートの提案も実現可能です。

4-3. サステナビリティとデジタルトランスフォーメーション(DX)の融合

既に述べた通り、持続可能な観光地の運営は今後の観光に欠かせない視点となります。DXは、このサステナビリティの実現においても重要な役割を果たします。

たとえば、AIを活用した来訪者予測システムを導入し、混雑が予想される日時を事前にウェブサイトで案内することで、観光客の訪問分散を促し、過剰観光の抑制につなげられます。また、飲食店におけるモバイルオーダーシステムは、待ち時間の削減だけでなく食品ロスの軽減にも貢献します。宿泊施設ではスマートキーの導入やエネルギー管理システム(BEMS)の活用が省エネ促進につながります。

このようにDXを通じて観光の利便性や効率を向上させる取り組みの多くは、結果として環境負荷の低減や資源の有効活用にも寄与します。最新のインバウンド施策を発信するJNTOの動向を見ると、サステナビリティは世界的な潮流であり、DXと組み合わせることで環境配慮を重視した先進的な観光地として強力なブランドイメージを築くことが可能です。

5. 実践!明日から始める観光DX導入ロードマップ

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ここまで観光DXの全体像を説明してきましたが、「理論は理解できたものの、具体的に明日から何を始めればよいのか」と感じている方も多いでしょう。ここでは、具体的な行動計画に落とし込むための4つのステップをご紹介します。

5-1. ステップ1:現状把握と課題の抽出

まず最初に取り組むべきは、大規模なシステム導入の検討に入る前に、足元の課題を徹底的に洗い出すことです。観光案内所のスタッフや地域の宿泊事業者、小売店、バスの運転手など、日常的に観光客と接している現場の方々からヒアリングを行いましょう。「観光客からよく寄せられる質問は何か」「どの業務に最も時間がかかっているか」「どのような支援があればもっと効率的に業務を行えるか」といったリアルな意見を集めることが不可欠です。

また、観光客の視点に立ち、駅から観光地までの移動の不便さやウェブサイトの情報の充実度などを自ら体感してみることも効果的です。バックオフィス業務においても、紙ベースの報告書作成や経費精算といった非効率な作業がないか点検しましょう。こうした大小さまざまな課題をリストアップすることが、DX推進の出発点となります。

5-2. ステップ2:目的と目標(KGI/KPI)の明確化

洗い出した課題の中から、最も効果が期待でき、かつ実現可能性の高いものを選定し、DXによって「どのような状態を目指すか」という具体的な目的(ゴール)を設定します。

例えば「観光案内所への電話問い合わせを減らしたい」という課題がある場合、「AIチャットボットを導入し、定型的な問い合わせ対応にかかる時間を現在の半分に削減する」といった具体的な目標を立てることが有効です。この段階では、KGI(最終的に達成すべき重要目標)とKPI(その達成に向けた中間指標)を設定することが重要となります。

先の例でいえば、KGIは「問い合わせ対応時間の50%削減」で、KPIは「チャットボットの月間利用件数」や「チャットボットによる自己解決率」などが考えられます。数値目標を掲げることで、施策の進捗を客観的に把握し、改善に役立てることができます。

5-3. ステップ3:小規模な取り組みから成功体験を重ねる

初めから莫大な予算を投入して完璧なシステムを導入しようとすると、失敗した際のリスクが大きくなります。まずは無料で利用できるツールや低コストで始められる施策から取り組む「スモールスタート」をお勧めします。

たとえば、Googleビジネスプロフィールの多言語対応の充実、Instagramの公式アカウント開設による地域の魅力発信、無料のフォーム作成ツールを活用したアンケート実施など、小規模でも効果的な取り組みが挙げられます。

QRコードを設置して多言語ウェブサイトへ誘導するだけでも、立派なDXの第一歩です。こうした小さな成功体験を積み重ねることで、「デジタル化で便利になった」「観光客の反応が良かった」という実感が得られ、関係者の意欲向上や、より大きな挑戦への理解と協力を得る基盤が築かれます。

5-4. ステップ4:パートナー選定と体制構築

観光DXを自治体やDMOの職員だけで全て実行するのは現実的ではありません。ITに精通したシステム開発会社やデータ分析に強いコンサルタント、地域の事業者をまとめるDMOなど、目的達成に最適なパートナーを見つけることが成功の鍵を握ります。

パートナーを選ぶ際は、単に技術力が高いだけでなく、こちらの課題や観光業界の特性を深く理解し、共に歩む姿勢があるかを慎重に見極めることが大切です。また、庁内にDX推進の中心となる担当部署やチームを明確に設け、事業者や外部パートナーとの連携をスムーズに行う体制を整えることが欠かせません。担当者が一人で抱え込むのではなく、組織全体で取り組む意識を醸成することが重要です。

6. よくある失敗とトラブル、その対処法

観光DXの推進には、必ずしも順風満帆な道のりが保証されているわけではありません。ここでは、多くの自治体がつまずきやすい失敗事例とその対策を理解し、同じ過ちを繰り返さないよう備えておきましょう。

6-1. 「導入しただけ」で終わるケースが多い

最も頻繁に見られる失敗は、高性能なツールやシステムを「導入すること」を目的化してしまい、実際にはほとんど活用されずに放置されるケースです。これは、導入前に「何のために導入するのか」「導入後に誰がどのように使うのか」といった目的や運用計画が曖昧なまま進めることが原因です。

対策としては、導入前に目的や達成目標(KPI)を明確に設定し、関係者全員に共有することが不可欠です。そのうえで、導入後も定期的に使用状況をモニタリングし、KPIの達成度を評価する会議を開催しながら改善のためのPDCAサイクルを継続して回す仕組みを初めから構築することが大切です。導入はあくまでもスタート地点であるという意識を持つことが、失敗を回避する第一段階となります。

6-2. 現場の理解不足で使われない問題

新たなツールを導入することは、現場の業務フローに変化をもたらします。トップダウンで一方的に進めると、「使い方が分からない」「今までの方法のほうが速い」「余計な業務が増えた」といった反発が現場から起きやすく、結果として誰も利用しなくなるリスクが高まります。これを避けるには、計画段階から現場職員をプロジェクトに巻き込み、意見を取り入れて共に作り上げていくプロセスが欠かせません。

導入の必要性を丁寧に説明し、事前に十分な研修やマニュアルを用意することも重要です。また、最初から多機能で複雑なツールを導入するのではなく、誰もが直感的に操作できるシンプルな機能から始め、現場の習熟度に応じて段階的に機能を拡充していくという段階的アプローチも効果的です。

6-3. 予算の確保・継続が難しいケース

多くの自治体が直面する課題の一つが、単年度予算の制約です。DXの取り組みは初年度にシステム導入費用が発生するだけでなく、その後も保守運用費やライセンス料が継続的に必要となる場合がほとんどです。

ところが、初年度のみの予算確保で翌年以降の費用が捻出できず、運用が途絶えてしまうと本末転倒です。対策として、まず国や都道府県が提供するDX関連補助金を徹底的に調査し、可能な限り活用することが求められます。また、単に「費用がかかる」と説明するだけでなく、DXによって削減可能なコスト(例:問い合わせ対応の人件費削減効果)や期待される経済効果(例:ウェブサイト経由の予約増加による売上向上)をできるだけ数値化して示すことで、費用対効果を明確に示し、継続的な予算確保のための説得材料とすることが重要です。

7. 観光DX推進に役立つ公的支援と情報源

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最後に、観光DXの推進において心強い公的支援制度や信頼できる情報源をご紹介します。独力で進めるだけでなく、これらのリソースを積極的に活用することをお勧めします。

7-1. 国や自治体の補助金・助成金

国は観光分野のDX推進に力を入れており、多様な補助金や助成金制度を用意しています。代表的な例として、観光庁が提供する「地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化事業」が挙げられます。これは個別事業者だけでなく、自治体やDMOが連携して取り組む地域一体型のDXプロジェクトへの支援を目的としています。

また、デジタル庁や中小企業庁が実施する「IT導入補助金」なども、地域の事業者がITツールを導入する際に活用可能です。さらに、国の制度に加え、多くの都道府県が独自の支援プログラムを設けているため、まずはご自身の地域の自治体ウェブサイトを確認したり、商工会議所に相談することをおすすめします。

7-2. 信頼できる情報収集先

観光DXに関する情報は多岐にわたり、質に差があるため、まずは公的機関が発信する一次情報を優先的に確認しましょう。

観光庁、JNTO(日本政府観光局)、デジタル庁の公式サイトは定期的にチェックし、国の施策や最新の統計データを把握しておくことが重要です。加えて、各都道府県の観光連盟や地域DMOが発信する情報は、地域特有の事情に即した有用な情報源となります。これらの公式情報に加え、信頼性の高い業界専門メディアや大手旅行会社、調査機関のレポートも参考にすると、市場動向や他地域の成功事例を学ぶ助けになります。

7-3. 相談窓口とコミュニティ

何から手を付ければよいかわからない場合や、具体的なツール選定で迷ったときは、専門家に相談するのが最善です。全国にある「よろず支援拠点」は、中小企業や小規模事業者の経営相談を無料で受け付ける公的機関で、DXに関するアドバイスも提供しています。また、地域のDMOや観光協会が主催するDX関連の勉強会やセミナーも、知識を深めるだけでなく、同じ課題を抱える他の自治体や事業者の担当者と交流できる貴重な場です。一人で悩まずにこれらのコミュニティを活用し、仲間を作ることがDX推進の大きな力になるでしょう。

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