訪日インバウンドの回復と拡大が続く中、多くの国内事業者が外国人旅行者の受け入れに意欲を示しています。しかし、宿泊施設や商業施設、体験型アクティビティを提供する皆様の中には、何から始めればよいか戸惑う方も多いのではないでしょうか。特に、地域の観光地域づくり法人であるDMOや、旅行会社との連携は、集客の柱となる重要なステップです。ただ待っているだけでは、訪日客はあなたの施設を訪れてくれません。
本記事では、旅行会社やDMOに対して自社の魅力を正しく伝え、送客を引き出すための営業資料の作り方を解説します。専門知識がなくてもすぐに実践できるよう、具体的な提案の切り口や数字の使い方を分かりやすくまとめました。DMO向け提案資料作成ポイントや、旅行会社連携営業手法を探している方は、ぜひ参考にしてください。訪日客購買動向を踏まえたアプローチで、確実な第一歩を踏み出しましょう。
特に宿泊施設の方は、DMOと連携した具体的な商品造成と集客の仕組みについて詳しく知ることで、より実践的な一歩を踏み出せます。
1 旅行会社と連携するための基礎知識とマインドセット

1-1 地域の窓口となるDMOと旅行会社の役割を理解する
インバウンド集客において、自社だけで海外の消費者に直接アプローチすることは非常に難しい現状があります。そこで鍵となるのが、現地の観光事情に詳しい旅行会社や、地域の観光戦略を担うDMOとの連携です。彼らは常に、訪日客に喜ばれる新たなコンテンツや、安心して送客できる受け入れ先を模索しています。
事業者にとって、旅行会社はお客様を連れてきてくれる大切なパートナーです。一方で旅行会社側も、手配がスムーズでトラブルのない信頼できる事業者を求めていることを認識する必要があります。単に自社の施設の良さをアピールするだけでは、彼らの関心を引くことは難しいのです。
DMOは地域の観光資源を磨き上げ、それを国内外に発信する役割を担っています。DMOが開催する商談会やプロモーション活動に参加することは、旅行会社との接点を持つうえで効果的な方法です。まずは地域のDMOがどのような戦略を持って活動しているかを把握し、自社がどのように貢献できるかを考えることが最初の一歩となります。
1-2 なぜ営業資料が必要なのかを再確認する
旅行会社の担当者は日々、多種多様な観光情報や施設情報に触れています。その中で自社の魅力を伝え、記憶に残してもらうためには、視覚的に見やすく、かつ論理的に整理された営業資料が不可欠です。口頭説明だけでは、具体的な取引条件や施設の詳細が正確に伝わらず、後々のトラブルを招く可能性があります。
特に海外の旅行会社と取引を行うランドオペレーター(地上手配会社)に対しては、情報の正確さが最重要です。受け入れ可能人数、バス駐車場の有無、アレルギー対応の可否など、手配担当者が必要とする情報が網羅されている資料があれば、「仕事がしやすいパートナー」として評価されます。
営業資料は単なるパンフレットやカタログではなく、旅行会社がそのまま顧客である旅行者に提案できるような、魅力的なストーリーと実務的なデータを兼ね備えたツールであるべきです。この資料を丁寧に作り込むことが、インバウンドビジネスの成功につながる強力な基盤となります。
1-3 最新の訪日客購買動向を把握する重要性
旅行会社に提案を行う際には、訪日客が現在どのようなニーズを持っているか、訪日客の購買動向を把握しておくことが非常に重要です。たとえば、「インバウンド消費動向調査(観光庁)」によると、モノの消費から体験(コト)へのシフトが定着し、とくに地域固有の歴史や文化に触れることを重視する傾向が強まっています。
こうしたマクロデータを背景に理解することで、自社のサービスがなぜ今の訪日客に響くのか、提案に説得力を持たせることができます。単に「着付け体験ができます」という説明よりも、「日本の伝統文化に深く触れたいというニーズの高まりに応え、本物の絹を使った着付け体験を提供しています」と伝えた方が効果的です。
また、国や地域によって好まれる体験や購買傾向は大きく異なります。アジア圏の旅行者と欧米豪の旅行者では滞在日数や興味の対象が異なるため、自社がターゲットにする層に合わせたデータを示すことが必要です。旅行会社はデータに基づく提案を好むため、こうした客観的な数字を味方につけていきましょう。
2 DMO向け提案資料作成のポイントと構成案
2-1 相手の課題解決を意識した構成を心がける
DMO向けの提案資料を作成する際、最も重視すべきは相手の抱える課題をどのように解決できるかという視点を持つことです。DMOは、地域全体の宿泊日数を伸ばしたい、消費額を増やしたい、特定の季節における閑散期の解消を目指すなど、明確な目的や課題を抱えています。そのため、自社の提案がこれらの問題解決にどのように結びつくのかを示すことが不可欠です。
提案資料の冒頭で自社紹介から入るのではなく、まず地域の課題に対する共感を示すことが効果的です。例えば、冬季の観光客減少が深刻な課題である場合、「当社では雪景色を活かした特別なインドア体験を開発しました」といったアプローチで始めるのがよいでしょう。こうした導入は、DMOの担当者に「自分たちの課題を真摯に考えてくれている」と感じさせ、話に耳を傾けてもらいやすくなります。
さらに、DMOは地域内の多種多様な事業者と連携してモデルコースを組み立てることが多いため、自社単独で完結する提案よりも、近隣施設との連携によって半日程度の滞在プランを作るなど、面としての広がりを出した提案のほうが非常に好まれます。地域全体の活性化を願う姿勢を資料全体で一貫して伝えることが大切です。
2-2 説得力を向上させるための客観的なデータの選定
提案資料には、感情に訴える写真や物語に加え、論理的な根拠となる数値データが欠かせません。例えば、「訪日外客数(日本政府観光局)」のような公式統計を活用し、自社のターゲットとする国籍の旅行者数が増加傾向にあることを示すことで、市場の潜在力を効果的にアピールできます。
また、会社独自の数字も強力な説得材料となります。たとえば、昨年に特定国から訪れた来館者数や、体験プログラムに対する満足度調査で最高評価を得た割合などの実績データを示すことです。インバウンド受け入れの実績が少ない場合でも、国内顧客のリピート率や平均滞在時間など、サービス品質を裏付ける数字を積極的に盛り込むと良いでしょう。
旅行会社やDMOは失敗を避けたいという心理が強いため、知名度のない施設にお客様を紹介してトラブルになるリスクを減らすために、客観的なデータは安心材料になります。ただし、都合の良い数値だけを並べるのではなく、正確な事実に基づいた情報を示すことで誠実な姿勢が伝わり、長期的な信頼関係の構築につながります。
2-3 自社の独自価値を明確に言語化し他社との差別化を図る
日本各地には数多くの宿泊施設や商業施設、体験プログラムが存在しています。その中で選ばれるためには、自社ならではの独特の価値を分かりやすく言葉に表すことが必要です。これを業界ではUSP(独自の売り)と呼びますが、特に難しく考える必要はありません。ポイントは「ここが他とは違う」という一つの特徴を明確に打ち出すことです。
例えば、単なる伝統工芸品の販売ではなく、「職人から直接歴史を聞きながら購入できる店舗」という特徴があれば、それは立派な独自価値となります。この強みを資料の目につきやすい場所にキャッチコピーとして配置し、旅行会社の担当者が「この施設はこういう特徴がある」と一言で説明できるように工夫することが重要です。
価値を言葉にする際は、専門用語はできる限り避け、誰が読んでもイメージしやすい表現を選びましょう。旅行会社の担当者が必ずしも地域の歴史や文化に詳しいわけではないため、中学生でも理解できるような平易な言葉で説明しながら、訪日客が感じる感動や体験の魅力を生き生きと伝えることが求められます。
3 営業資料に盛り込むべき具体的な項目と詳細

3-1 ターゲット設定と提供体験の具体化
営業資料の核心は、どの訪日客層に向けて、どのような体験を提供するかを明確に示すことにあります。ターゲットが曖昧で「誰でも楽しめます」といった漠然とした提案は、結局誰の心にも響きません。例えば、欧米豪の富裕層で夫婦がゆったり過ごしたい層や、アジア圏の若年層で写真映えを重視するグループなど、ターゲットを高い解像度で設定することが重要です。
さらに、そのターゲット層が自社を訪れた際に体験する一連の流れをタイムスケジュール形式で示すと、より親切です。例えば、体験プログラムなら、到着からお出迎え、着替えや事前説明、本番の体験、記念撮影までの所要時間を具体的に記載することで、旅行会社はスムーズに旅程に組み込みやすくなります。
また、提供する体験が季節や天候によってどのように変化するのかも重要なポイントです。雨天時の代替プランが用意されているか否かを明記することは、旅程管理を行う旅行会社にとって必須の情報です。晴天時の美しい写真だけでなく、悪天候でも楽しめる様子を伝える情報が含まれていることで、提案の信頼度が格段に向上します。
3-2 受け入れ体制と安全面でのアピールポイント
インバウンドの受け入れに関しては、言語対応や設備といったハード面、そしてスタッフのおもてなしなどのソフト面の体制が、旅行会社にとって特に重視されるポイントの一つです。多言語対応については、英語が話せるスタッフが常駐しているか、翻訳機や指差しツールで対応しているかなど、実際の対応状況を正確に記載することが求められます。
英語対応が可能と記載しながら、実態が伴わずクレームに繋がるケースは少なくありません。完璧な語学力がなくとも、ツールを活用したり、ジェスチャーで歓迎の意を示したりする姿勢があれば高く評価されます。現状の体制を正直に伝え、どのような工夫で対応を補っているかを明示することが重要です。
安全面のアピールも忘れてはなりません。特に体験型アクティビティを提供する場合、事故発生時の保険加入状況や最寄り医療機関までのアクセス、緊急時の連絡体制などは、必ず資料に記載しておくべき項目です。こうした危機管理体制の整備を示すことで、旅行会社からの信頼度が大きく高まります。
3-3 取引条件や手配のしやすさの明確な提示
営業資料の後半には、企業間取引に特有の実務的情報をまとめたページを設けます。旅行会社が最も知りたいのは、自社にどれだけの利益が残るのかという点です。したがって、旅行会社向けの卸価格や販売価格に対する手数料率を、明確に記載する必要があります。
また、予約の申し込み締め切り日時、キャンセルポリシー、支払い方法などの取引条件も、見やすい表形式などで網羅的に示しましょう。これらの条件が不明瞭だと、手配担当者は問い合わせの手間を嫌がり、他の施設を優先してしまう恐れがあります。
さらに、大型バスでのアクセスが想定される場合は、駐車場の有無や駐車可能台数、施設までの徒歩移動時間、加えて乗務員向け控室や食事提供の有無なども重要な判断材料となります。旅行会社の手配担当者の視点に立ち、彼らが必要とする情報を先回りして提供することが、優れた営業資料の条件と言えます。
4 実践的な旅行会社との連携営業手法とアプローチ
4-1 アプローチ前の準備とターゲットのリストアップ
営業資料が仕上がったら、いよいよ旅行会社へのアプローチに移ります。ただし、むやみに連絡を取るのは非効率です。旅行会社への連携営業の最初のステップは、自社のターゲット層と合致する顧客を持つ旅行会社をリストアップすることにあります。特に訪日客の国籍や旅行スタイルに強みを持つ会社を見極めることが重要です。
リスト作成の際には、各旅行会社の公式ウェブサイトで現在取り扱っているツアー商品を確認するのが効果的です。自社施設のあるエリアを含むツアーを既に企画している会社であれば、旅程の一部として組み込んでもらえる可能性があります。まったく関連のない地域を取り扱う会社に営業をかけても、すぐに成果を出すのは難しいことが多いです。
加えて、DMO主催の商談会や全国的に開催されるインバウンド向け展示会は、多数の旅行会社担当者と一度に名刺交換ができる絶好のチャンスです。こういったイベントへは積極的に参加し、自社の認知度向上に努めましょう。事前準備として、自社を短時間で効果的にアピールできるトークの台本を用意しておくことも推奨されます。
4-2 商談時の効果的なコミュニケーションと提案手法
旅行会社の担当者との商談機会を得たら、一方的に自社説明をするのではなく、まずは相手のニーズを引き出すコミュニケーションを心がけてください。例えば「どの国からの送客が多いですか」「この地域で不足しているサービスはありますか」といった質問を投げかけ、相手が抱える課題や要望を丁寧に聞き出すことが大切です。
課題が明らかになったら、準備した営業資料の中から、その課題解決につながるページをピックアップして説明しましょう。たとえば、富裕層向けの特別体験を求めている場合は、一般には公開していないプライベートな空間での体験プランや、付加価値を高めた特別メニューを提案することで、強く興味を惹きつけることが可能です。
商談の終わりには、必ず次のアクションを決めましょう。「来週までに空き状況をお知らせします」「社内で検討後、月末に再度連絡します」といった具体的な期限と行動を約束することで、単なるあいさつで終わらせず、実際の案件へと進展させやすくなります。
4-3 トラブル回避のための注意点
旅行会社との連携で最も避けるべきなのは、言った言わないのトラブルです。商談で口頭合意した取引条件や特別な要望については、必ず商談後にメールで議事録を送付し、双方で記録を残す習慣をつけましょう。特に海外の旅行会社とは、文化や商習慣の違いによる誤解を防ぐためにも、このプロセスは欠かせません。
さらに、オーバーブッキングを防ぐことも重要です。過剰な予約を受けると、旅行会社からの信用を損なう重大な問題になります。自社の予約管理システムと旅行会社からの予約リクエストをどのように一元管理するか、社内で運用ルールをあらかじめ明確に定めておくことが求められます。特に少人数で運営している事業者は、予約返信の漏れには細心の注意を払ってください。
万が一、当日の急な休業や設備の故障といったトラブルが起きた場合は、隠さずに速やかに旅行会社担当者へ連絡し、誠意を込めた代替案を提示しましょう。困難な状況ほど事業者の対応力が問われる場面です。迅速かつ誠実な対応ができれば、いざという時に頼りにされる信頼できるパートナーとして評価が高まることもあります。
5 連携を継続し成果を最大化するためのフォローアップ

5-1 フィードバックの収集と改善のサイクルを回す
旅行会社を介して訪日客を受け入れた後も、それで終わりではありません。実際に訪れたお客様の反応や、案内を担当したガイドからの意見を積極的に集めることが、その後のサービス向上に繋がります。旅行会社の担当者に対し、今回のツアーでのお客様の反応について定期的にヒアリングを行いましょう。
厳しい意見や改善要望があっても、それを否定せずに謙虚に受け止めることが大切です。指摘された課題を改善し、「前回ご指摘いただいた部分はこのように改修しました」と旅行会社にフィードバックすることで、前向きで熱意のある事業者であるという良い印象を与えられます。このような改善のサイクルを継続することが、長期的な集客成功の鍵となります。
また、季節ごとの新企画や施設アップデートの情報なども、定期的に旅行会社へ発信することを忘れないでください。月に1回程度の簡単なメールマガジン形式でも問題ありません。常に相手の記憶に自社の存在を残しておくことで、次に新しいツアーを考える際に、真っ先に声がかかる関係性が築けます。
5-2 公式情報の確認と制度変更への柔軟な対応
インバウンド市場は、各国の経済状況や為替の変動、さらには法制度の改正により、常に変動しています。ビザの緩和措置や免税制度のルール変更は、訪日客の購買行動に直結するため、国や観光庁が発信する公式情報を定期的にチェックし、最新の動向を自社ビジネスに反映させる姿勢が欠かせません。
たとえば、補助金や助成金制度も毎年更新されます。施設の受け入れ環境整備や高付加価値化に活用できる支援制度がないか、『オーバーツーリズムの未然防止・抑制をはじめとする観光地の面的受入環境整備促進事業』や『観光需要分散のための地域観光資源のコンテンツ化促進事業(観光庁)』などの情報を、自治体の窓口や公式サイトで随時確認し、賢く資金を活用して施設の魅力を向上させましょう。
なお、オンライン旅行予約サイトの手数料率や規約、各種制度の細かな条件は頻繁に見直されるため、本記事のアプローチを実践する際は、必ず最新の一次情報を自身でチェックする習慣をつけてください。変化に機敏に対応できる柔軟さこそが、インバウンドビジネス成功のポイントです。
これからのインバウンド集客は、単なる数合わせにとどまらず、地域と旅行者、そして事業者が深く繋がる持続可能な観光の視点が求められます。本記事で紹介した営業資料の作成法やアプローチ方法を参考に、旅行会社やDMOと強固なパートナーシップを築いてください。その一歩が、皆様の事業を新たな成長軌道に乗せる原動力となるでしょう。
参照:
観光庁/訪日外国人消費動向調査
日本政府観光局(JNTO)/訪日外客数
観光庁/令和8年度 観光地受入環境整備関連事業など