インバウンド施策を検討するとき、「台湾ならFacebook」「中国ならRED」「春節に合わせてキャンペーンを実施しよう」といったように、国や媒体、施策から話が始まることがあります。
もちろん、チャネルや施策を選ぶこと自体が問題なのではありません。課題になるのは、「誰の、どんな意思決定を動かしたいのか」が曖昧なまま、施策だけが先に決まってしまうことです。
この状態では、施策を実施して一定の成果が出ても、「なぜ成果が出たのか」「次回も同じ施策を続けるべきなのか」という判断材料が残りにくくなります。
本記事では、インバウンド施策を単発で終わらせず、次の施策判断につなげるために、旅行者の意思決定を起点として施策を設計する考え方を整理します。
この記事のポイント
- 「インバウンド」をひと括りにせず、誰の意思決定を動かすのかから考える
- 施策を選ぶ前に、Who・When・Whatを整理する
- 施策結果を数字だけで終わらせず、得られた学びを次の施策判断に活かす
インバウンド施策が「やって終わり」になってしまう理由
インバウンド施策では、春節や国慶節などの時期が近づくと、広告、KOL、SNS、キャンペーンなどの施策を検討し、短期間で実行するケースがあります。
施策終了後には、広告の表示回数やクリック率、SNS投稿のリーチなどを確認する。しかし、次の重点時期になると、再び「今回は何をやるか」から検討が始まる。
このサイクルで不足しているのは、施策を通じて得られた顧客理解を次回へ残すことです。
たとえば、広告CTRが高かったとしても、それだけでは、
- どの旅行者に反応されたのか
- どの情報が意思決定に影響したのか
- 旅行計画のどのタイミングで接点を持つべきなのか
- 次回も同じ施策を続けるべきなのか
までは判断できません。
実施件数や配信結果だけではなく、「誰のどの判断に効いたのか」を理解できる状態にすることが、その後の施策改善には必要です。
「インバウンド」という一つの市場があるわけではない
施策起点で考えてしまう背景の一つに、「インバウンド」を大きな一つの市場として捉えてしまうことがあります。
しかし、訪日旅行者の旅行行動は市場によって異なります。

出典:観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年 年次報告書」、日本政府観光局(JNTO)「訪日外客統計」よりOnwords作成
※1 一般客:クルーズ客を除く訪日外国人旅行者 ※2 1人1泊当たり旅行支出は、1人当たり旅行支出÷平均泊数により算出
2025年の訪日旅行者を見ると、韓国、中国、台湾、米国、香港では、平均泊数や1人当たりの旅行支出、訪日経験などに違いがあります。
さらに、「台湾市場」まで絞ったとしても十分とは限りません。
同じ台湾からの旅行者でも、たとえば、
- 子どもと旅行するファミリー
- 訪日経験が豊富な個人旅行者
- ゆとりのある旅程を組むシニア層
では、旅行目的や同行者、訪日経験、移動手段、旅程が異なります。
その結果、必要とする情報や、施設・店舗・商品を選ぶタイミングも変わります。

そのため、インバウンド施策では国籍や年代といった属性だけでなく、旅行時の行動文脈まで捉えてターゲットを考えることが必要です。
施策を考える前に「Who・When・What」を整理する
では、具体的に何から考えればよいのでしょうか。
Onwordsでは、施策を選ぶ前に、まず次の3点を整理します。
Who|誰の意思決定を動かしたいのか
Whoは、「台湾・30代・ファミリー」のような属性だけではありません。
訪日・海外向け施策では、
- 初めての訪日か、リピーターか
- 何を目的に旅行しているか
- 誰と旅行しているか
- どのエリアに滞在するか
- 自社を旅行の主目的にしてもらうのか、周遊先の一つとして選んでもらうのか
といった旅行時の行動文脈まで考えます。
同じ属性でも、旅行の状況が違えば、選択の基準も変わるためです。
When|旅行のどの段階で選ばれるのか
次に考えるのがWhenです。
旅行者の意思決定は、来日してから始まるわけではありません。
たとえば、
認知 → 理解 → 比較検討 → 決定 → 来訪 → 共有・評価
といった形で、旅マエから旅ナカ、旅アトまで続いていきます。
ここで見るべきなのは、「旅マエか、旅ナカか」だけではありません。
自社の商品・施設・店舗が、旅行計画のどの段階で候補に入り、いつ選ばれるのかを考えます。
What|その判断に何が必要なのか
WhoとWhenが決まったら、その旅行者が意思決定を進めるために必要な情報を整理します。
大きく分けると、
■ 行く理由
なぜ、ほかではなくこの施設・店舗なのか。
■ 選べる根拠
自分たちに合うのか。ほかの選択肢と比べてどうなのか。
■ 動ける情報
アクセス、予約方法、料金、営業時間など、実際に行動するために必要な情報は何か。
という視点があります。
ここで大切なのは、企業が「伝えたい情報」を並べることではありません。
旅行者が「行く」「買う」「予約する」と判断するために、何を知る必要があるかから情報を考えます。
KOL・広告・SNSは「やること」ではなく接点の候補
Who・When・Whatが整理されると、その後に初めてHow、つまり施策やチャネルを検討できます。

たとえば、
- 誰:台湾・香港から訪れる子連れの訪日リピーター
- いつ:旅行前に体験候補を比較し、旅程へ組み込む段階
- 何を:その施設へ行く理由、家族で選べる根拠、アクセスや予約方法
まで整理できれば、「その意思決定を前に進めるには、どこで、どのように情報を届ければよいか」を考えやすくなります。そこで初めて、SNS、KOL、広告、記事などが選択肢になります。
つまり、「台湾だからFacebook」「認知を増やしたいからKOL」ではなく、動かしたい意思決定から施策の役割を決めるという順序です。
施策を実施したら「何件取れたか」だけで終わらせない
施策設計と同じくらい重要なのが、実施後に何を残すかです。
そのためには、施策を実行する前から、
Hypothesis(仮説) → Measure(検証) → Learning(学び)
をセットで考えます。
Hypothesis|何を確かめたいのか
まず、「顧客についてまだ分かっていないこと」を仮説として置きます。
たとえば小売店であれば、
旅行者は店舗への来店を旅ナカで偶発的に決めるのではなく、旅マエから「行きたい店」の候補をつくっているのではないか。
という仮説が考えられます。
Measure|何で確かめるのか
次に、その仮説が正しかったかを判断するための指標を決めます。
ここで注意したいのは、「広告だからCTR」「LPだからCVR」と機械的に指標を決めないことです。
認知を確かめたいのであればリーチ、比較検討への移行を見たいのであれば保存、来店・購買まで見たいのであればクーポン利用や購買など、検証したい内容に応じて指標は変わります。
Learning|次に何を活かすのか
最後に、結果から何が分かったのかを整理します。
仮説は正しかったのか。想定と違ったのはどこか。次回も続けること、変えること、さらに検証することは何か。
ここまで残して初めて、施策結果が次回の判断材料になります。
実際の支援でも、旅マエの意思決定に着目することで見え方が変わる
実際のOnwordsの支援でも、旅行者の意思決定を起点に施策を設計した事例があります。
ある洋菓子ブランドでは、商品そのものを訴求するだけではなく、「日本旅行のお土産として、なぜこの商品を選ぶのか」という判断材料を旅マエに届ける施策を実施しました。
Meta広告からタイアップ記事へ誘導し、商品の背景やストーリー、お土産として選ぶ理由を伝えたうえで、SNS上で保存・シェアされる接点を設計しています。
また、ある小売店の事例では、「店舗への来店は旅ナカで決まる」という前提を置くのではなく、旅マエから『行きたい店』の候補に入ることが、その後の来店・購買に関係するのではないかという仮説を置きました。
KOLによる発信、Metaパートナーシップ広告、クーポン情報を組み合わせて旅マエから接点をつくった結果、施策実施期間では前年と比較して投稿保存数やクーポン利用件数などの増加が確認されています。
ここで重要なのは、「旅マエ施策をすれば成果が出る」という一般化ではありません。
自社の顧客はいつ意思決定しているのか、という前提そのものを施策によって確かめ、その結果を次の設計に反映することです。
まとめ|「何をするか」より先に、動かしたい意思決定を決める
インバウンド施策を単発で終わらせないためには、施策の数を増やすことよりも、その施策によって何を理解したいのかを明確にすることが重要です。
まず、
Who|誰の意思決定を動かすのか
When|旅行のどの段階を動かすのか
What|その判断に何が必要なのか
を整理する。
そのうえでHowとして施策を選び、Hypothesis・Measure・Learningを通じて、実施結果を次の判断材料へ変えていく。

このサイクルを残すことで、重点時期のたびに「今年は何をやるか」から考え直すのではなく、前回得られた顧客理解を起点に次の施策を考えられるようになります。
さらに詳しく知りたい方へ|自社のインバウンド施策をチェックする
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